師匠の工房に、夏休みの自由研究で焙煎体験に来ている小学生の男の子(大智くん)がいるというのは聞いていた。
その後も大智くんは何度か焙煎体験に来ており、挨拶は交わしていた。
その日は師匠の都合で、自分が大智くんの焙煎体験を指導することになった。
以前の焙煎体験では、うまく出来ていたということを聞いた。
自分が指導することになり、うまく出来るか心配だったが焙煎自体はうまくいった。
焙煎後のハンドピックとチャフ飛ばしの作業の前に休憩を兼ねて、
焙煎したての豆を大智くんにドリップしてもらった。
大智くんはハンドドリップは初めての経験とのことだったが、一緒に教えながら上手に淹れられた。
上手に淹れられたね、美味しいね、と大智くんのお母さんと話しながら飲んでいたのだが、
大智くんは首を傾げていた。
その姿を見て、とても焦った。
師匠に任された焙煎体験で『美味しくなかった』で、帰す訳にはいかないと思い、
大智くんと話しながら何が美味しくないのか、どこが違ったのかを必死で探していった。
最終的に、チャフ飛ばしをしていないせいで、
コーヒーに雑味が残っているのではないかという結論に至った。
今度はチャフ飛ばしを行い、もう一度ドリップしてもらい飲んでもらった。
大智くんが満足した顔をしてくれた。
確認のため自分も飲ませてもらったが、味が全然違っていた。
コーヒーのわずかな味の違いも感じ取れ、周りの大人たちが美味しいねと言っていても
自分の味覚を信じることは素晴らしいと思った。
普段は手間や時間がかかるために、試飲の段階ではチャフ飛ばしは行っていなかったが、
この体験から試飲の時にもチャフを除くようになった。
大智くんには、自分たちがやっていることの正しさを教えてもらうことができたし、
大智くんは素晴らしいものを持っていると思うので、大切にしてもらいたいと願っている。
焙煎体験は自分が教える立場だが、とても勉強になった一日だった。